参考文献紹介第4回「日本初本格ソーセージの製法」

参考文献紹介、第4回目は明治43年に講農会から発行された「豚肉加工講習会講義録」です。

この文献は明治43年、東京府にあった農商務省種畜牧場渋谷分場に於いて2月1日から3月2日にわたる30日間に渡り、全国の都道府県の技師を対象に開催された豚肉加工講習会で使用された講義を講農会が記録し各講師の校閲を経て発行されたものです。

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デジタルデータ

この文献の第4編、豚肉加工法は農商務省嘱託職員でマスター・オブ・サイエンスと呼ばれる飯田吉英氏がアメリカ留学後執筆され、この中にポークソーセージ、ボロニャソーセージ、フランクファーツソーセージ、タングソーセージ、リバーソーセージ、プレーンソーセージ、トマトソーセージ、ブラットソーセージ、レオナソーセージ、ミンスドハム、ニューゼルシーハムといった11種類のソーセージの材料配合から煮沸、燻煙の時間といった本格的な製法が記載されています。

著者である飯田吉英氏は明治9年(1876)茨城県新治郡戸崎村に生まれ、東京帝国大学農学実科を卒業後、神奈川県農会を経て、昭和40年農商務省(現農林水産省)の実習生としてアメリカのイリノイ州立大学へ留学します。1年3か月にわたり食肉加工について学び帰国、農商務省種畜牧場渋谷分場で豚肉加工について講習を行うとともに、民間よりの実習委託、加工練習生の養成を行います。

大正6年6月、千葉県千葉市都町に畜産試験場が移転するとその技師を任命。大正7年千葉県習志野市の習志野捕虜収容所にてソーセージ職人のドイツ兵から、12種類のドイツ式ソーセージの製法を学び、ソーセージ技術の向上を図りました。またその知識は多岐に渡り養豚の方法から加工に関する文献をはじめ、畜産に関する多くの文献や報告書を執筆し、業界の発展に大いに貢献した、大木市蔵氏も認める食肉加工業界発展の大功労者であります。

大正7年以降に発行された飯田吉英氏の著書及び、他の方の著書を見ても、その内容は「豚肉加工講習会講義録」に準じており、当サイトのトップページにて記した、日本の食肉加工に於ける4つの流れ、①畜産試験場流 ②鎌倉ハム流 ③ローマイヤ流 ④大木流のうち、畜産試験場におけるソーセージの製法は飯田吉英氏がアメリカ留学に学んだ、本書の米国式ソーセージの製造法がベースにあると思われます。

本書における、基本のソーセージ、ポークソーセージの製法は以下の通りです。

「ポークソーセージは全く豚肉のみを以て製造せらるるものにして、普通清良なる豚肉3分、豚脂1分の割合をもって配合せられ、而して之を細切器にかけ充分に細かに切截し之に芳香品を加ふ、其の種類分量等は一様ではないけれども、普通豚肉1貫目(3.75kg)に対し食塩20匁(75g)胡椒8匁(30g)、砂糖16匁(60g)、生姜10匁(38g)、ナツメグ4匁(15g)、硝石4匁(15g)を加味するときは美味なる製品を得られる。若し容積を大ならしめんとすれば、小麦粉トウモロコシ粉を混べし。肉が十分に刻まれ加味品が能くまぜられる後は腸詰器を用いて豚の小腸に詰むなり。」

この配合は現在の製法にかなり近いものと思われます。なお穀物粉を使うのは米国式と言われています。

明治43年、飯田吉英氏によって本格的なソーセージの製法は伝わりました。しかしソーセージが日本に根付いていくまでにはまだまだ時間がかかるようです。(第5回につづく)

ソーセージに関する飯田吉英氏の著書

「通俗畜産叢書第1巻 豚肉加工」 中央畜産会 大正7年

「ハムとソーセージ」 子安農園出版部 大正12年
(米国式にドイツ式ソーセージの製法も記載される)

「豚肉加工法」成美堂書店 大正14年

「養豚の理論と実際」成美堂書店 大正15年

大正7年以降に発行されたソーセージの製法に関する文献(一部)

「最近養豚百倍法」 奈良浦次郎 著 国華堂本店 大正13年

「副業養豚法」 芝田清吾 著 東文堂書店 大正14年

「実践豚肉加工法」高屋鋭 著 長隆舎書店 大正15年

「豚と其の飼ひ方」北海道農業教育研究会 編 淳文書院 昭和11年