参考文献紹介第10回「大木市蔵、日本で初めてソーセージを共進会に出品」

参考文献紹介第10回は、大正7年8月に神奈川県畜産会より発行された、「神奈川県畜産共進会事務報告」です。

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デジタルデータ

この文献は大正6年11月1日から11月5日まで神奈川県畜産会主催により横浜市蒔田町で開催された畜産共進会についての報告書で、市蔵氏のソーセージが高橋清七氏名義で出品され4等賞に入賞しています。明治45年からマーテン・ヘルツ氏のもとで磨いた技術がついに陽の目を浴びます。

第8回で紹介した市蔵氏の著書「実用豚肉加工法」では、
「術者(大木)は明治45年、前記ドイツ人ヘルツ氏と親交を結び、斯業の必要なのを痛感し、それ以来密かに研究を積み大正3年第1回神奈川県畜産共進会に、参考品として数種出品した。これ恐らく日本人として共進会に「ソーセージ」出品の最初であろう。」

の記述がありました。この記述は国内のソーセージの歴史に関する文献のソースとなっているため、その後に発行される文献でも、大正3年に大木市蔵が初めて共進会にソーセージを出品したとの記述となっています。当会の調査により、第1回の神奈川県畜産共進会が開催されたのは、大正6年ということが判明し、この文献に確かに高橋清七名義でソーセージが出品されていること、燻肉(ベーコン)の出品者として大井市蔵とありますが、これは大木市蔵氏と思われますことから、大正6年の第1回神奈川県畜産共進会にソーセージを出品していることは、間違いないということで、当記念館開設時より、人物史には大正6年第1回神奈川県畜産共進会にソーセージを出品と記載させていただいております。

kanagawakyoushin2一方で、市蔵氏は大正3年に開催された別の共進会にソーセージを出品しており、この共進会を第1回神奈川県畜産共進会と混同されているのでは無いかという観点で、他の文献を調べたところ、「大正3年横浜市主催の埋立完成記念大共進会にわが国初のソーセージを出品した」(ソースは市蔵氏本人ではなく他の方)との記述がありました。これにより人物史にはその旨記載させていただきましたが、先般横浜都市発展記念館に問い合わせたところ、大正3年及びその前後には「埋立完成記念大共進会」というものはでてきませんでした。

横浜港の埋め立て事業が完成した記念として昭和12年に「埋立祝賀開港記念祭」が開催されていますが、これは「実用豚肉加工法」が発行された後のもの、大正2年に横浜市において開催された「横浜勧業共進会」の誤りという説もあったのですが、先日横浜開港資料館でこれに関する文献を調べてみましたが、高橋清七氏、大木市蔵氏の出品、他の方によるソーセージの出品はありませんでした。また大正3年3月に東京市にて開催された東京大正博覧会においてもソーセージの出品はありませんでした。

迷ったのですが、市蔵氏も「実用豚肉加工法」の追記にて、「本書は督促急で多忙の中、病をおして徹夜で書き上げた、再読の暇もなかったので、諸君の御鞭撻を得て改誤訂正を得たいと」記載されていますので、市蔵氏が共進会に初めてソーセージを出品したのは大正6年の第1回神奈川県畜産共進会として訂正させていただきます。

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