参考文献紹介第11回「大木市蔵、畜産工芸品の全国大会で入賞」

参考文献紹介第11回は、大正8年に横浜通信社より発行された「神奈川県畜産工芸案内」です。

この文献は大正8年3月18日から5月31日に至る約2か月半の間、東京上野公園不忍池畔で初めて開催された畜産工芸品の全国大会「第1回畜産工芸博覧会」においての神奈川県出品物の報告書です。

大木市蔵氏の著書「実用豚肉加工法」にあった、「後8年(大正8年)第1回畜産工芸博覧会に当時私の奇寓する親戚高橋氏の名義で10数種出品して、宮内庁の御用命を得るに至った。」という部分です。

まず見てみると、33ページに出品者として江戸清號高橋清七氏の説明が以下のようにあります。

「高橋商店は千葉ハムを首め(はじめと読むのでしょうか?)ベーコン、スモーク、メット、ウオスト、セーヴェラタウオスト、ソーセージ其他の製造販売に従事すること多年、販路を内地、香港、南洋、支那其他に有し製品優良価格低廉なるため常に注文殺到の好況に在るは普く世に知られり」

電子データ

デジタルデータ

また広告の14ページに江戸清の広告があり、「シャマンオーウスト」(ドイツ式ソーセージの事)「一般サウセイジ」の記載があります。

こちらの文献には記載はありませんがこの博覧会の結果報告が、大正10年に中央畜産会より発行された「畜産工芸博覧会報告」(※1)に記載されています。

市蔵氏(高橋清七氏)の出品は次の11種類、「千葉ハム」「千葉ベーコン」「ピグスヘッドスモクド」「カスラー」「スモクフェット」「ピグスフォートソールド」「スモクメットウォスト」「セーブラーターウオスト」「サンマーウオスト」「シンケンウォスト」「ツンゲンウォスト」
なおこの博覧会にソーセージを出品した他の方は次の通りです。

椎野横浜ハム商会(神奈川県)「耐久ソーセージ各種」、高橋製肉所(※2)(兵庫県)「神戸ソーセージ」「當座用ソーセージ」、布田典悟氏(長崎市)「ソーセージ」、青島ハム商会「ロシアンスタイルソーセージ」「サンマーソーセージ」。

本博覧会において市蔵氏のハム、ソーセージは2等賞に輝き宮内省に御買上られています。肉加工品の部類では1等賞には鎌倉ハム製造組合「鎌倉ハム、ベーコン」、高橋清平氏(先の高橋製肉所)「神戸ハム、ベーコン」ですので、ソーセージに関しては最上位となります。なおこの時の主任審査官は飯田吉英氏が務め講評として次のように述べられています。

「本会出品の肉製品はハム最も多く、ソーセージ及びベーコンは之に次其の他の製品は極めて僅少なり、ハム及びベーコンの製造は其の技術近来大に進歩し風味佳良にして一般需要の嗜好に適するもの多かりしは悦ぶべし、しかりといえども原料なる豚肉の選択法其の宜しきを失し且豚肉截切法の不良なるもの多きを遺憾とす。截切法は包装上空隙を生ぜざらしむるを主とせざるべからず。徒に量目を増加せんが為の骨若くは剰余の肉を除去せず形状を不整ならしめ包装の不完全を顧みざるが如きは大に戒めざるべからず。特に輸出向に在りてはこれら諸点に就き十分なる注意を望む。又肉の鹹味(しょっぱさ)強きに過ぐるもの、色沢の不良なるもの、レーベルの英文の誤字を有するものの如きは速やかに改善を要す。」

「ソーセージは概して原料肉の截切及び充填法其の宜しきを得たりともいえども風味色沢に於いて欠陥を有すもの多し。将来一層の改良を加へて残肉利用の一法となすこと極めて緊要なり。」

この博覧会で出品されたハム、ソーセージの総合的な評価は海外品と比べて飯田吉英氏の眼鏡にかなうものでは無かったようです。

なお、市蔵氏の製品については飯田吉英氏の後日談が見つかりましたので、次回取り上げさせていただきたいと思います。

※1著作権の保護期間が満了していませんので、国会図書館のデジタルデータの見れる図書館でご覧ください。
※2高橋清平氏もかなり早くからソーセージの製造を始めており、関西方面では第1人者と思われます。